慶弔見舞金と保険と税金

 冠婚葬祭は誰にでも訪れる行事です。そのときに会社としてできることはあまりないかもしれませんが、従業員にせめてもの気持ちとして金銭を包むことは、従業員との良好な関係性を築く上でとても大切な要素の一つです。

 

 とはいうものの、経営者としてはどういう基準で支給すればいいか気になるところです。実際のところ結婚祝いなどですと3万円がマスのようですが、地域によっても役職によっても異なるので一概には言えません。

 

 金額については専門書などのデータを参考してもらうことにして、ここでは支給するときのポイントを説明します。

 

 

■慶弔見舞金は、賃金か。

 

 賃金の定義は、労働基準法に記載があります。

 

 労働基準法第11条

「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」

 

 労働の対償としてなので、福利厚生の意味合いが強い慶弔見舞金は、賃金ではありません。

 ただし、就業規則などで、その支払い条件や具体的な金額を決めた場合には賃金となります(昭和22年9月13日発基第17号法第11条関係3)。賃金であれば、労働基準法第24条の賃金の支払い5原則を守らないとなりません。書いてあるけど払いませんは通じません。

 


■保険料、税金は発生するか。

 

 恩恵的に支給する慶弔見舞金は、例え賃金であったとしても労働保険や社会保険がかかることはありません

 参考:厚生労働省「労働保険年度更新申告書の書き方~労働保険対象賃金の範囲」

 参考:日本年金機構「算定基礎届の記入・提出ガイドブック~3ページ:報酬とは」

 

 また、所得税においては、冠婚葬祭にかかるものは非課税の扱いになっています。

 参考:国税庁「所得税基本通達9-23:葬祭料、香典等」

 参考:国税庁「所得税基本通達28-5:雇用契約等に基づいて支給される結婚祝金品等」

 

 最後に、消費税においては、不課税取引になります。

 参考:国税庁「課税の対象とならないもの(不課税)の具体例」

 

 
■慶弔見舞金規程を作成するべきか。

  

 規程がなければ経費(損金)にならないわけではありません。一定の基準に従って支給される金品であれば損金にはなります。誰に対しても結婚祝いは3万円というのも立派な基準です(国税庁:交際費と福利厚生費の区分)

 とはいえ、第三者に対して説明するには規程がある方が説得力が増すので、時間に余裕があれば作成しましょう。作成する際は、就業規則には金額まで記載せずに、慶弔見舞金規程を参照するとの文言にとどめておきましょう。変更する場合の手続きが簡単になります。

 

 さて、ではどういう内容にすればいいでしょうか。

 検討する材料としては次のようなものがあります。

 

 ①支給は、一律か、勤続年数か、役職か。

 ②範囲は、全員支給か、正社員までか、パートまでか。

 ③対象家族を広げすぎていないか(2親等を含めるか否か)。

 ④役員に対して高額になっていないか(国税不服審判所裁決事例:入院見舞金相場は5万円)

 

 ①についてですが、支給金額自体を一律で設定しておくことや役職によって金額を決めておくことなどが考えられます。勤続年数のカウントというのは見た目以上に面倒で、1年未満を切り捨てにするか、半年未満を切り捨てにするかなどを考えなければなりませんから条文が増えていきますので要検討です。

 

 他方で、1年未満の勤続では慶弔見舞金を支給しないとの文言は、新入社員のモチベーションを下げることになりますので設けないほうがいいでしょう。中途社員で、やっとの思いで就職できた!これで結婚できるという考えの人と、何度も入退社を繰り返した人とを同列に扱うことはフェアではありません。仮に、1年未満で不本意な支払いが発生した場合は事故と思って諦めましょう…

 

 また、④は経営者の方には重要で、法人契約の医療保険で被保険者を役員として設定している場合、入院保険金として100万円会社に入金されたからといって、そっくりそのまま役員に支給すると、賞与に認定される可能性が高いということです。賞与ということは、個人では所得税住民税が課税されて、法人は法人税まで取られるという、いわゆる往復ビンタを喰らうことになりますので注意しましょう。

 

 慶弔見舞金規程は、別規程を設けるほどのことではないようですが、実際に作成してみるとあれもこれもと付け加えられそうな内容だけにいかにシンプルに作成するかがポイントです。従業員としては、それほど頻繁に目にする内容ではありませんが、後顧の憂いなく仕事が出来るように穴のないものを作成するように心掛けましょう。

 

 

 以上、ご精読ありがとうございました。